ジョータローの TGO チャレンジ 2019 : Part 2-準備編
2月に提出したルートシートを、2−3回に渡り審査員とやりとりし、3月に最終的にルートが承認されると、いよいよ旅の準備にとりかかる。
飛行機の手配、TGO前後の宿の確保、鉄道路線の確認、リサプライポイントの確認、その他、やるべきことはかなりある。自分の場合は、TGOの後にスコットランドの蒸溜所巡りや現地でのいくつかのミーティングの日程も入っていたので、それらの日程管理を含めるとかなりの作業量となった。
ここでは、TGOの為のナビゲーションについて、そして基本的な装備を紹介する。
ナビゲーション
TGOに限らず、バックパッキング・トリップにおいて、最も重要な事はナビゲーションだろう。
いくつかの地点を下見し、丹念にルートを設定し、ルートの全体像がかなり頭に入っているとはいえ、見知らぬ土地を、それも決められたトレイルではなく、オフトレイルを含めて300km以上に渡るルートを2週間かけて歩くためには、ナビゲーション・ツールとしての地図とコンパスが不可欠であろう。しかし今回は物理的な地図を持たないという作戦を取った。理由は、全行程の詳細な地図はとても嵩張るし重いという点と、iPhoneのGPSアプリが優れているという点と、本体の防水性を含めた信頼性の向上が挙げられる。
これには賛否両論あるだろう。そして、地図とコンパスを持たない事を決してオススメするものではない。
実は2014年以降、1週間かそれ以上に渡るトリップでも地図を持たないで行っていた。その代わりiPhoneのGPSアプリ「Gaia GPS」をこれまで使用してきた。「iPhoneの電池が切れたらどうする?」とか「故障して使えなくなったらどうする?」という声が聞こえてきそうだが、メインのiPhone X以外に、全く同じアプリをセットアップし、該当するエリアの地図を事前にキャッシュしたバックアップ用のiPhone 7を予備として持っている。そして、リサプライポイントまで必要十分なバッテリーも持っている。この方法でこれまで困ったことは一度もない。夏季のカリフォルニアの様な気候ならソーラーチャージャーも有効だろうが、スコットランドの様な移り変わりが激しい気候ではソーラーチャージャーは役に立たないだろうと予測し、できるだけ大容量のバッテリーを持つことにした。さらに万が一のために、リサプライポイントにも予備のバッテリーを予め送っておいた。
かれこれ5年以上使用している「Gaia GPS」は信頼性も高く、サクサクと動く非常に頼りになるGPSナビゲーションアプリだ。結果的に、今回もこの「Gaia GPS」には助けられたというか、これ無しではあり得なかっただろう、と思う。とくに、広大な丘陵地形で踏み跡も無いオフトレイルで、どこを向いても同じ様な景色が広がるエリアでは、簡単に方向感覚すら失われる。それでもこのアプリのおかげで、ロストすることなく確実にルートを把握しながら進むことができた。実際歩いたルートと設定したルートは一部違うところもあった。天候の状態と、体のコンディションを考えて、その場でルート変更を決断したが、そんな時にもこのナビゲーションシステムのおかげで難なく乗り切ることができた。
ケアンゴームズ国立公園の、方向感覚を失う様な荒涼とした丘陵地形のオフトレイル。GPSもしくは地図・コンパスが無ければ途方に暮れてしまうだろう。
ギアとクロージング
シェルターシステムを含むギアや衣類、靴の選択は非常に重要で、選択に際しては該当するエリアの気温と気象条件に大きく左右される。予め過去のTGO開催時の実際の気温や気象条件をネット上で調査し、他の参加者の事前のギアリスト等も参考にしながら選択した。
<シェルター>
シェルターはDjedi DCF-eVent。設営がとても容易かつ軽量で極めて透湿性の高いシングルウォールのドーム・テントは、スコットランドの様な移ろいやすい天気には最適だ。シングルウォールのテントは結露による内部の濡れが寝袋にも影響しかねないが、Djediは結露を最小限に抑えることができる。さらに、雨対策として、前室機能を付加できるエクステンションのDjedi VXを持参した。これにより、雨が降っても前室での湯沸かしが可能となり、雨によってテント内が濡れることも防げる。現時点での最強のシングルウォール・ドームテント・システムと言っても過言ではないだろう。
ジェダイ DCF-eVent ドーム
ダイニーマ®の不織布とイーベント®のメンブレンをラミネートした防水透湿性ファブリックを使用。
<バックパック>
バックパックはゴッサマーギアのマリポサ60を選んだ。スコットランドの気候は移ろいやすく雨が多い。その為、シェルターやレインウエア、その他、濡れたまま乾かない状態で運ぶ機会が多くなる。ゴッサマーギアのマリポサは、サイドポケットとリアポケットの容量が大きく、メインのコンパートメントはウォータープルーフのインナーサックで防水し、濡れたシェルターはサイドポケットに、レインウエアやその他の濡れものはリアポケットに収納できる優れものだ。このように、嵩張る濡れものと濡らしたくない寝袋や衣類等を分けて収納できるのはすばらしい。また、ショルダーハーネスの幅が広く、背負い心地も良い。
ゴッサマーギア マリポサ60
大きなサイドポケットと背面ポケットが魅力のバックパック。テントやその他、嵩張る濡れたものの収納可能。
<ウオーターフィルター、ストーブとクッキングシステム>
ウオーターフィルター兼ストレージは、BeeFreeの1リットルのものを選択。行動時に川、湖、湧き水その他どんな水源からも飲み水を確保でき、かつ、フィルターの信頼性も水流もよい。さらに、キャンプ地で浄水した水を保存するためのNalgeneの、広口の1lサイズのプラスティックバッグを用意した。
ストーブは、今は廃盤となっているが、使い慣れているジェットボイルのチタンバージョンを選んだ。2週間もの長旅ではエネルギー効率がより高いことが重要だ。さらに、湯沸しのスピードが早く,、手早く調理が可能なところが良い。
食料はお約束のドライフードだが、調理用のコンテナを自作で改良し、保温性を高めた。これは、市販のフードコンテナにアルミ蒸着された保温素材を貼り付けたもの。これだけで、保温性がぐっと向上する。
ドライフードに関しては、今回はパタゴニアのプロビジョンズを中心にチョイスしたが、サーモンはかなりいける。また、少々重いが、ムール貝の缶詰もいくつか選択した。プロビジョンズの豆と野菜のスープにサーモンとムール貝の組み合わせはかなり美味い。さらに、個人的にはドライフードの中で最もイケてると感じているReal Turmatを数種類と、Backpack Pantryの物をいくつか持参、そしてリサプライに加えた。
<クロージング>
着衣は、昼夜の寒暖の差が激しい上に、晴れと雨が1日のうちに何度も繰り返されるため、微調整が効く物が必要だ。ベースレイヤーはスマートウールの薄手メリノウールのハーフジップ、それにパタゴニアのフーディニ・ジャケット、冷えたらハーフジップの、軽量なテクニカル・フリースを加えるという組み合わせはうまく機能した。パンツはストレッチの効いた速乾性のポリエステルのものを選んだ。また、高地で休息したり停滞する場合は、汗冷えを防ぐため、濡れても保温性を失わないように、化繊のインサレーション・ジャケットを選んだ。また、レインジャケットとレインパンツは非常に重要だ。雨が降ったり止んだりするたびに脱着を繰り返したり、ほぼ一日中着用しなければならないので、透湿性があり信頼性の高いジャケットが要求される。パンツに関しては、後半は雨がちだったので、ゴアテックスの、防水透湿性がありかつ伸縮性のあるパンツで歩き通した。
<ソックス>
2017年にTGOを歩いているゴッサマーギアCEOのグラントに会った際に「靴下は余分に持って行った方が良いよ。」というアドバイスをもらった。渡渉と湿地帯が多く、降雨により足が濡れた状態が続いた経験から、予備の靴下が重要だということを学んだという。そのため予備の靴下と普段釣りの時に使う防水ソックスを持参した。この防水ソックスはかなり効果があった。しかし、外側からの濡れは防げたが、蒸れた足が柔らかくなるのは防ぎきれなかった。ブリスターができそうになったら、気づいた段階で早めに処置をすることが好ましい。自分の場合は、やばいなと感じたら即、大きめのキズパッドを患部に貼り、ブリスターが破れて皮がめくれるのを防いだ。
<シューズ>
シューズ選びは非常に重要だ。渡渉が多く、「ボグス(bogs)」と呼ばれる不整地の湿地帯を横切ることも多いので、必然的に足元は濡れた状態が続く。ゴアテックスのメンブレンを使用した防水タイプの靴はある程度の濡れには効果があるだろうが、スコットランドの気候や地形を考慮すると、より軽量で防水ではない、メッシュアッパーの乾きやすい靴が良いと判断し、今回はサロモンのトリプルクラウンと呼ばれるロングディスタンス・ウォーキングに特化した軽量でトゥベッド(つま先部分)の広い靴を選んだ。この靴はとても快適だったので、正解だったと思う。長距離を濡れたままの足で歩くと、ふやけた足にはブリスターができやすく、一度ブリスターができて皮がむけると非常に辛い。それを防ぐためには濡れた靴と靴下を度々乾かす必要があったが、メッシュアッパーのお陰で、日が差すと乾きが早かったのは非常にありがたかった。

4月下旬、旅の準備は整い、いよいよスコットランドへ。