7日目の朝は、目の前にMount Darwin(4,146m / 13,830ft)を望むEvolution BasinのCamp 6で迎えた。昨夜の風雨は嘘のように収まり、青空が広がっている。
Camp 6の標高は3,444mで、明け方の気温はかなり低いはずだが、日が差して暖かくなって来ると、すでにバグネットなしではいられないほど蚊が飛び交っている。
バグネットを被ったまま、コーヒーを淹れ、オートミールの朝食を摂る。そして、さっさとパッキングをして、7日目を歩き出した。
このCamp 6のあるEvolution Basin一帯は「The Evolution Group」と呼ばれ、その名の通り「進化論」にちなんだ人々の名前がピーク名に冠せられている。今日はここからEvolution Lakeを経て、Evolution Valleyに沿って、ひたすら標高を下げて行く。Mount Darwin、Mount Mendelと連なる山稜が素晴らしい眺めだ。
エボルーション·グループ
エヴォルーション(進化)·グループと呼ばれるこのエリアの山々の名前は、1895年に、ヨセミテからホイットニーに至るルートの開拓者であるスタンフォード大学の数学者セオドア·ソロモンによって名付けられた(そして、それは後に、最終的にJMTの一部となった。)。
セオドアは、氷床で覆われた渓谷の森林限界で発見した明るく輝く花崗岩質の峰々に、当時脚光を浴びていた有名な進化論の支持者たちにちなんだ名を付けた。
彼は次のように書き記している。「私は、偉大な進化論者たちの、自然の中の崇高なものに対する献身という姿から、これほどピッタリなネーミングは無いと思った。」
彼が名付けた6つのピークは、ダーウィン山、フィスク山、ヘッケル山、ウォーレス山、ハクスリー山、そしてスペンサー山である。さらに彼は、そのエリアから流れ出るエボルーション·クリーク、そのエリアに幾千とある氷河湖の中で最もドラマチックな湖である、エボルーション·レイクも命名した。
ソロモンの壮大なトリップの後、さらに他の二人の進化科学者であるラマルクとメンデルの名が、先の偉大な進化論者たちのグループに加えるにふさわしいと考えられ、新たなピーク名になった。
Evolution Basin
トレイルは、Evolution Basinを縦断し、碧く美しい澄んだ水を湛えるSapphire LakeからMount Mendel直下のEvolution Lakeへと繋いで行く。
Evolution Lakeから振り返ると、「The Evolution Group」の峰々のMount SpencerとMount Huxleyが見える。
Evolution Lakeを過ぎると、地形は急に深く切れ込み、Evolution Valleyへと姿を変える。
渓谷に降りる直前あたりに、Darwin Beach、Darwin Canyonを経由し、Lamarck Colを越え、Lamarck Col Trail経由でNorth Lakeに接続するトレイルへの分岐点がある。
トレイルは、スイッチバックを繰り返し標高を下げ、Evolution Valleyの渓谷沿いの樹林帯を進み、Evolution Meadowに到達する。ここでは、比較的大きなクリークを渡渉することになる。このEvolution Valleyを形成するEvolution Creekもやはり素晴らしい渓相で、時間さえあればこの辺りで停滞して釣りに時間を費やしたいと思うような場所だ。
Evolution Meadowを過ぎると、Evolution Valleyはさらに深く切れ込み、San Joaquin Riverに合流し終結する。San Joaquin Riverに降りる急勾配を、トレイルはスイッチバックを繰り返しながら下降して行く。下りきって、San Joaquin Riverに合流したところで、キャンプ適地を見つけたのでCamp 7を設定した。
Camp 7では、Santa Barbaraから来ていると言う夫婦と隣同士になったので、色々と情報交換をした。
彼らは、ヒマラヤを始め世界中のさまざまなトレイルを歩いているエキスパートで、ここから我々と同じPiute Pass経由でNorth Lakeに抜けると言う。
何度もJMTをセクションハイクしているのでロケーションの良いキャンプ地を知っている、次のCamp 8に予定していエリアで少しオフトレイルの良いキャンプ地がある、と言うので、GPSのコーディネーションを教えてもらった。
今朝も快晴だ。いつものように、湯を沸かしコーヒを飲み、軽い朝食を摂り、さっとパッキングして8日目を歩き出す。
San Joaquin River沿いの樹林帯をトレイルは進み、途中San Joaquin River bridgeを渡る。San Joaquin Riverは深く流量が多いので、ここには鉄製のしっかりした橋が架けられている。
このSan Joaquin Riverもまた、今回のJMTセクションハイクで訪れた他のクリークと同じように、あちらこちらに魚が潜んでいそうなポイントが満載だ。

鱒が潜んでいそうな、San Joaquin River
San Joaquin River沿いのトレイルは、やがてPiute Creekとの合流点に差し掛かる。Piute Creekも歩いて渡渉できる規模では無いので、鉄製の立派な橋が架けてある。橋を渡るとJMTとPiute Canyon Trailとの分岐点となる。同時にここでSquoia King Canyon National Parkも終わりを告げ、ここからはJohn Muir Wilderness /Sierra National Forestとなる。

Piute Creek Bridge

John Muir Wilderness Area / Sierra National Forestに入る
先に想いを馳せながらも、ここでJMTのメイン·トレイルとはお別れである。ここからは、Piute Canyon TrailをPiute Passに向かって標高を上げながら歩いて行く。
Piute Canyon Trailは、Piute Creekが刻む深いPiute Canyonの切り立った左岸沿いを進んで行く。
標高を上げるにつれて、渓谷はなだらかになって来たが、Piute Creekは水量も多く流れも激しい。

Piute Creek
しばらく行くと、険しいPiute Canyonは終わり、Piute Creek流域は広くなり、Hutchinson Meadowと言う開けた樹林帯へ入って行く。ここでトレイルはFrench Canyon Trailとの分岐点に差し掛かる。
さらに標高を上げて行くと、岩ばったエリアへと差し掛かる。Piute Pass trailはJMTほど踏み跡が明瞭では無い。その上岩盤のような状態の箇所が続く。よく見るとケルンや道筋を示すように小さい岩が並べてあったりするが、注意していないとトレイルを見失いがちだ。
Piute Pass Trailの鹿
さらに進むと、Hamphereys Basinの入り口付近の広大な湿地帯のエリアに差し掛かる。ここでトレイルは分岐している。Camp 7で出会った夫婦に教えてもらったキャンプ適地のGPSのコーディネーションを頼りに、オフトレイルを進んで行く。メイントレイルから外れ、GPSを頼りに広大ななHumphreys Basinを進んで行く。
このHumphreys Basinは今回のトリップの中でも指折りの場所だ。JMTのメイン・トレイルを外れても、このような素晴らしいロケーションのあるハイシエラ一帯の奥深さを垣間見たような気がする。
Humphrey Basin
Gaia GPS
Gaia GPSは、数年前から北米をトリップするときに使用している、iPhoneで利用可能なGPSアプリだ。数多くのハイカーやバイクパッカーが絶賛し使用している通り、非常に優れたGPSアプリだと思う。GPSアプリとしての基本的な機能、位置情報、高度、移動速度、移動距離、移動時間、記録等、必要なファンクションは全て網羅されている。また、使用できる地図のオプションが多岐にわたっていることが大きな魅力で、あらかじめ設定してダウンロードしておけば、複数の異なる地図をオフラインでもフレキシブルに使用することができる。
使用方法や設定に関してはそれぞれ好みがあると思うが、自分の場合は、ルート図と重要なウェイポイントをGPXデータとして読み込んで使用している。地図に関しては、NatGeo Trail Illustrated、USGS Topo、Gaia Topo、Satelliteの4つの異なる地図を使用した。それぞれの地図が持っている特性や情報が違うので、状況に応じて使い分けている。これにより、オフグリッドにいてもより複合的な情報を入手することが可能だ。
また、このアプリを利用して写真を撮っておけば、後でトリップレポートを作成する際に、地図と写真の紐付けが非常に効率よく行える。今回のこのトリップレポートもGais GPSのおかげで効率よく作業が進んでいる。
Humphreys Basinでは、トレイルを外れ広大なBasinのオフトレイルを行き、GPSのコーディネーションだけでキャンプ適地を探さねばならなかったが、このような状況ではこのGaia GPSは真価を発揮する。
広大なHumphrey Basinのオフトレイルを、目的地のUpper Golden Trout Lake付近のCamp 8予定地に向かってGaia GPSでナビゲーションする。
すでに日が西に沈みかけた頃、Upper Golden Trout Lake付近の高台に差し掛かると、向こうで手を振っている二人がいた。Camp 7で出会ったSanta Babaraから来ている夫妻だ。
湖畔の小高い場所に上がり、二人と再会できた喜びを分かち合う。長い1日だったが、ここは今回のトリップの中でも最高のキャンプ地となった。
Khufu HBをセットアップし終えた頃には、ほぼ日は沈み、写真のようにようなサンセット·ビューとなった。