快晴の空にFin Domeが映えるナイスなビジュアルがテント越しに見えるテン場で朝を迎える。
日中の強烈な日差しと暑さ(と言ってもカラッとして不快では無い)に比べると、日暮れから早朝にかけては標高が高いこともあり、サーマルなベースレイヤーにインサレーションを羽織ってちょうどいいくらいのキリッと引き締まる寒さがある。昼夜の寒暖の差は大きい。
いつものように湯を沸かし、コーヒーを淹れ、オートミールの朝食を摂る。
透湿性の無いKhufu HBは幾分結露が発生しているが、Djedi DCF-eVent Domeの内側は、フロアレス・シェルターのKhufu HBより密閉率が高いにも関わらず、結露はなくサラっとしている。DCF-eVentの透湿機能性は素晴らしい。
今回のトリップも3日目を迎え、JMTの素晴らしさがじわじわ実感できるようなって来た。今まで、カナディアンロッキー、オリンピック·マウンテン、オレゴン、コロラドなどの北米のトレイル、フィンランド、スロベニア、スイスなどのヨーロッパのトレイルを垣間見て来た。どこも素晴らしいトレイルだったが、ここはやはり世界最高のトレイルの一つといっても過言では無いだろう。それは単にナショナル・パークとして守られた稀有で素晴らしい大自然というだけでなく、「人間が自然と関わることができる場」として、それを維持している人々の持つ哲学や思い、保護するために守るべき合理的なルール、ここを訪れるハイカーの意識の高さといった、すべてのものを包括して最高のトレイルなのだ。
そんなことを、ふと思いながら3日目のトレイルを歩き出した。
左側に現れるAllow Lake、さらにしばらく進むと右側に現われるDollar Lakeを越えて、Woods Creek South Forkの渓谷沿いに進むトレイルの高度を下げていく。
今日も天気が良く、下り基調のよく整備されたトレイルを、素晴らしい渓谷と山々の景色を見ながら歩くのは最高に気分がいい。標高は3,000m前後だが日差しは強烈で、長袖のベースレイヤーに帽子、さらに手ぬぐいを帽子に挟み込んで、日焼けを防止するとともに暑さをしのぐ。
Dollar Lakeを越え、Baxter Passを経由して、インデペンデンスの町外れにあるBaxter Pass Trail Headに繋がるサイド·トレイル Baxter Pass Trailとの分岐に出る。
さらに標高を下げていくと、有名な吊り橋の掛かるWoods Creekに到着する。
Woods Creekは、渡渉するには大きな川なので立派な吊り橋が架けられている。
シンプルな構造の吊り橋は、造形的にも美しい。渡ってみると、見かけよりも揺れるので少々面食らうが、しっかりしているので恐怖感はない。
しかし、歩行面の板は所々腐食?というか脆い感じになっているので注意深く進んだ。できるだけ真ん中をゆっくり歩けばそれほど揺れないが、足を左右に運ぶと、かなり揺れる。
Woods Creek 吊り橋を渡るジェイソン
吊り橋を渡るとトレイルは北西方向へ進路を変える。Camp 2から下り続けたトレイルはここから上りに転じる。
トレイルの右側を流れるWoods Creekにチラリチラリと目をやると、今すぐにでもフライを打ち込みたくなるようなポイントが満載のナイスな渓相だ。しかし、ここで釣りに時間を割いていると予定通り次のキャンプ地にたどり着けないので、ぐっと堪えて目的であるTwin Lake湖畔を目指す。
次回ここを訪れるなら、釣りにもっと時間を割きたいと思わせるような渓流だ。
吊り橋から800mほど標高を上げて来た。Woods Lake方面に振り返ると、空と名もなき山々(それでも富士山と同じくらいか高い標高。)とトレイルの織りなすコントラストが美しい。
この付近からSawmil Pass Trailへの分岐がある。このトレイルは、ルート395沿いのBlackrockと呼ばれる小さなコミュニティーのあるエリア付近に繋がっている。
さらに標高を上げ、トレイルから100mほど外れたところにあるTwin Lake、Camp 3に辿り着いた。
素早くテントを設営し、寝床を確保する。
その後湖を見に行くと、魚影があちらこちらに見える。夕まずめで、釣りをするには絶好のタイミングかもしれない。
ここまで、通過して来た湖ではほとんど魚影を見なかったので、ここはイケると踏んで直ぐに釣りの準備を始めた。
今回持参した竿はパタゴニアのテンカラ竿で、もっとも短い8’6″(259cm)のモノだ。山岳地帯の幅の狭い源流域での釣りにはこの長さで十分なのだ。それに、仕舞寸法も短く軽いというのが、今回のような長旅にはもってこいだ。
しかし、今回の湖のような広いエリアがターゲットとなる場合は、少々心もとない長さではある。
パタゴニアのテンカラ·システムは、テーパードのフライ・ラインにテーパード・リーダー、ティペットというタックル・システムで、日本の伝統的なテンカラのタックルとは幾分趣が違う。しかし、フライ・ラインとフライ用リールを使った釣りに慣れているフライフィッシャーには、キャスティングのコツが掴みやすいという利点がある。
普段は湖で釣りをすることはほとんどないので、湖面から見えている魚が釣れるかどうかはいささか疑問だった。というのも、以前、ワシントン州のオリンピック・マウンテンでアルパインエリアにある湖で釣りをした時は、魚影はあるものの全く反応がなかったからだ。(こちらから魚が見えるということは、魚からもこちらが見えている。)
抜き足差し足で、姿勢を低くしてステルスで近づていき、一投目を投げるとなんと直ぐに反応があった。ここの魚は全くスレていないのだろうか?
記念すべき、JMTでの初釣果は八寸ほどのBrook Troutだ。オレンジ色の腹に、黒褐色のボディー、黄色っぽい斑点に混じって紫色の斑点がある美しい魚体だ。斑点は背びれに行くに従って、虎目のような美しい模様になっている。
気を良くして、直ぐに第二投目のフライを見えてる魚の鼻先めがけて落とすと、これまた即座に反応があった。先ほどのBrook Troutとはいささか趣の違う、どちらかというと白っぽい魚体だ。Brown Troutだろうか?しかしよくみると、先ほどのBrook Trout同様に紫色の斑点と、うっすら黄味がかった斑点がある。おそらくこれもBrook Troutの一種かもしれない。
ほんの10~20分の間に、立て続けにキャスティングした全てに反応があり、あっけなく今夜の夕食分の釣果5匹ばかりを確保できてしまった。あまりにも簡単に釣れすぎるのと、今日の疲れが出て来たのでここで竿を収めた。釣り続ければ、何匹でも釣れそうだった。
ジェイソンと釣果に乾杯し、貴重なタンパク源を感謝して余すところなくいただいた。
蓄積した疲労もあり、その夜はぐっすりと眠ることができた。
4日目の朝、またまた快晴のいい天気。ここはカリフォルニアなのだということを実感する。
この辺りも幾分湿潤なエリアなので、昨夜も日没前後は大量の蚊が発生して、バグネットなしではいられなかった。
毎日天気が良いので、幾分結露したシェルターも湿り気を帯びた寝袋も直ぐに乾燥するのはありがたい。
今回のトリップも中盤に差し掛かって、すっかり3,000mオーバーの高度にも順応して来た。
今日も今日とて、コーヒーを淹れ、朝食を済ませ、パッキングして歩き始める。
ウォーター·フィルター
ここ数年は、Sawyer Miniというコンパクトで高性能が売りのフィルターを使って来たが、ボトルとの接合部分にあるパッキンが、使用するペットボトルによっては度々変形して、そこから水が漏れたり、あるいはパッキン自体を紛失するという事が度々起こっていた。パッキンの不備と紛失によって発生する水漏れは、せっかく浄水された水と浄水前の水が混ざってしまうことがあり、使うたびに不便を感じていた。
そこへ来て、KATADYN BeFreeという浄水器が発売された。これはソフトタイプのボトルに、しっかりと密閉できるフィルター一体型の飲み口がついていて、ファーストインプレッションで使って以来、とてもよくできていると感心した。したがって、今回のJMTにもこのBeFreeを持参した。
今回のJMTでは全行程を通じてこのBeFreeが大活躍で、浄水するスピードも早く、ハンディで使いやすい。相棒のジェイソンはSawyer Miniを持っていたが、自分が感じていた不便さと同じことを感じており、浄水するたびに自身の持っているSawyer Miniを使わないでこのBeFreeを貸してくれと頼むようになった。
Camp 3から今日の峠であるPinchot Pass(3,685 m)まで、じわじわと高度を稼いでいく。
標高が3,450mを越えると、トレイルに残雪が見られるようになって来た。しかし、雪渓は部分的で、雪も硬く締まっている上に踏み跡もしっかりしているので、横断するのにも全く問題は無い。1ヶ月早ければ、この雪渓も随分と様相が違っていただろう。
今回は、一応念のためアイス・アックスとクランポンも持参しているが、この調子でいけば使う機会は無いように思えた。
行けども行けども、果てしなく続く広大なハイシエラの山岳地帯。歩みを進めるごとに変化する雄大な景色、包み込まれるような自然との一体感。JMTはまだハイ・シーズンなので、すれ違うハイカーはそれなりにいるが、それでも広大なので適度に孤独感も味わえるのがいい。時間と経済事情が許せばこのエリアをもっと長期間にわたって歩いていたいという願望が沸き起こってくるのも無理もない。
体が随分高所順応してきたとはいえ、標高3,500mを越える峠を越えていくのは、息が切れる。
しかし、実際は、今回のJMTに関しては高度順応に関してはそれほど苦ではなかった。コロラドのMaroon Bells-Snowmassを歩いた時(平均標高が3,400m)は、ハイキングの前に友人が住むフェアプレイという町(標高3,000mにある)で体を慣らしてから訪れたのだが、それでも最初の1-2日は頭痛がしたり気分が悪くなったりしたので、あらかじめ日本で処方してもらった高山病予防薬のダイアモックスを飲んだのだが、今回は、そういった症状は、一切なかった。
Pinchot Passで来た道と新たな地平を眺めながら、しばし小休止する。
ここからは下り基調の快適なクルージングだ。
途中、峠の直下にある湖のほとりで、今回初めてマーモットを見かけた。
Lake Marjorieの手前で、「CCC」というロゴのついたヘルメットを被り、レンジャーのような制服に身を包んだ一団がトレイルの整備をしていた。このような遠隔地で黙々と働く若者達がいるというのは、アメリカの底力と奥深さを感じる。
この「CCC」とはCalifornia Conservation Corps(カリフォルニア自然保護団体)の略で、1976年に設立されたアメリカで最も古い歴史と規模を誇る自然保護団体である。詳しい活動内容はこちらのページ(英語)を参照していただきたい。彼らのモットーが凄い。「重労働、低賃金、ひどい状況、そしてもっと!」
このような人々の献身的な働きにより、我々はJMTのような快適なトレイルを満喫する事が出来るのだ。例えば、岩盤地帯でトレイルが不明瞭な箇所では、踏み跡がつかないためトレイルがどこに続いているか見失いがちだが、大きめの岩を並べてルートを間違わないようにしてあったり、渡渉箇所に飛び石状に岩を並べて足を濡らすことなく渡りやすくしてある等の配慮がなされている。
今回は、他の場所でもこのようなトレイル整備をしているかなりの数の「CCC」の隊員を見かけた。
さらに標高を下げながらトレイルを行くと、Bench Lakeに通じるBench Lake TrailとTabouse Passを経由してルート395に抜けられるTabuse Pass Trailの分岐に差し掛かる。この分岐点にはレンジャー・ステーションがある。
我々は、さらにトレイルを進みながら標高を下げ、Kings River South Forkの手前でCamp 4を設定した。