「ニィクス」化繊キルトのフィールド・テスト・インプレッション

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2013年12月1日

by Jotaro Yoshida

 “Nyx” Synthetic Quilt  / 「ニィクス」化繊キルトを、様々なフィールドでテストしてきましたが、その際のインプレッションをいくつかご紹介いたします。Nyxを導入しようとお考えの皆さんの参考に成ればと思います。

Nyxは基本的には3シーズン利用可能なキルトとして、足かけ約2年半に渡り、開発してきましたが、具体的にどのような気象条件、気温、高度、地勢の状況において使用可能か、また、シェルター、ビヴィ、マット等のスリーピング・システムと着衣のレイヤリングとの組み合わせによって、どれくらいまでの気温域までなら快適に眠れるか、といったことを考える上での目安になればと思います。

尚、このインプレッションは私の個人的な感想であり、人それぞれが感じる寒さや快適さには多少の差がありますので、その点はご了承ください。

さて、インプレッションをご紹介する前に、Nyxに使用されているマテリアルと基本的なスペックをご紹介したいと思います。

 


<カバリング素材:Pertex Quantum GL>

Pertex Quantum GLは、従来のPertex Quantumの進化型として最も先進的なファブリックです。超極細の10デニール以下の糸使って精緻に織られており、1平米あたりの重さは25g(0.75 oz/yd2)以下となっています。

◆技術仕様

  • 組成:100% ポリアミド(ナイロン)
  • 重量 :25グラム/平方メートル以下
  • 通気性:1.0cc(最大)

◆主要なプロパティ

  • 軽量
  • 重量比あたり最も強い
  • 防風性
  • シルクのように柔らかく、すべてのPertex素材のなかで最小のパッキング容量

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<インサレーション:PrimaLoft One>

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PrimaLoft® ONEは暖かさ、耐水性及び柔らかさ、圧縮率において、市場で最高性能の断熱材です。

PrimaLoft® ONEは暖かく、ソフトで軽量な超微細マイクロファイバーのインサレーションで、乾燥していても湿っていても、他のすべてのインサレーションよりも暖かいです。

マイクロファイバーの小さなエアポケットは、体の熱を閉じ込め冷気を遮断します。その結果、嵩張る事無くただちに暖かくなります。

PrimaLoft® ONEのマイクロ・ファイバーは恒久的な耐水性の為に設計され、水分の侵入を阻止する緊密な表面張力を造り出しており、その結果、インサレーションとして、グースダウンより素早く乾燥します。

超微細マイクロファイバーは、グースダウンの圧縮性を模倣し、透湿性があり、繊維を通じて肌から水蒸気を逃がします。

◆主な特徴

  • 優れた熱効率
  • 優れた耐水性
  • ダウンよりも高速に乾燥
  • 軽量で通気性に優れている
  • ダウンのように暖かく、ソフトで圧縮性が高い
  • 防風性

 

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クロ値(clo値)とは、着衣の断熱・保温性を示す指標です。ASHRAEでは、「衣服の熱絶縁量(熱抵抗)の単位.湿度50%、風速10cm/s、気温21.2℃の大気中において、椅子に腰かけて安静にしている白人標準男子(産熱量 50kcal/m2h)被服者が、平均皮膚温33℃の快適な状態を継続するために必要な被服の熱絶縁値を1cloという」と定義しています。

上のグラフが示すように、PrimaLoft Oneでは、このclo値がドライな状態で0.92、濡れた状態でも0.9と、非常に高い数値を示しています。すなわち、濡れても約2%しか断熱・保温性が下がらないという事です。 これはダウンにはない大きなアドバンテージです。


<Nyx Synthetic Quilt Spec>

カバリング素材: Pertex Quantum GL

中綿:PrimaLoft One 133g/m2

サイズ:首回り幅 約1.3m 、足元幅 約1m、全長 約1.9m

重さ:540g(スタッフサック含む)

 

主な特徴:

  • 長さが調節できる、薄型バックル付きエラスティック・ベルトが背面部に2カ所。それぞれのエラスティック・ベルトの付根4カ所にはループが付いており、ショックコード等を通してマットを固定する事が可能。
  • フット・ボックス部分はプラホックにより開閉可能、またフット・ボックス・エンドはショックコードとコードストッパーにより開閉可能。

*サイズに関しましては、今回テストをした私の身長は178cm、体重は76kgという体格で、ジャストフィットです。最大で180cm、体重80kgくらいの方までなら使用可能と想定しています。


<フィールドテスト1:スロヴェニア・ジュリアンアルプス縦走ハイキング>

  •  時期:2012年8月初旬
  • キャンプ地高度域:600m – 2,300m
  • 最低気温:摂氏6度(標高約2,300mのキャンプ地点にて観測)
  • 天気:晴れ時々曇り、曇り時々晴れ
  • シェルター: Khufu CTF3 Black
  • ビヴィ: Pneuma Tyvek Bivy
  • 寝袋: Nyx Synthetic Quilt prototype
  • マット: Therm-a-Rest Z-lite long

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この時期のスロヴェニア・ジュリアンアルプスの気候は、夏の日本の北アルプスを想像していただければ類似した環境と言えます。若干違うのは、森林限界が日本の山よりも低く、降水量が少ないため幾分乾燥しているという点です。

最も気温が低くなったハリバライス平地は、標高が約2,300mで、地面がほとんど岩場という環境で、シェルターを設営するにあたっては、ペグが全く役に立たない状況で、周囲に転がっている岩をガイラインに結びつけて設営しなければ成りませんでした。

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真夏でも森林限界より上で、地面がほとんど岩場の為、昼夜の気温差が激しく、就寝時には15度前後あった気温も明け方には6度くらいまで冷え込みました。風があまりなかったのが幸いでした。また、乾燥しているため、シェルター内に結露は見られませんでした。

この時のスリーピングシステムの構成は、岩床の上に直接フォーム・マット(Z-lite Long)を敷き、Pneuma Tyvek BivyとNyxという組み合わせです。また、就寝時の着衣レイヤリングは、薄手のウールソックス(Patagonia light weight)、化繊のボトムス(Patagonia GIII zip-off Pants)、薄手の化繊ベースレイヤー(Patagonia Capilene 1 Silkweight Crew)、化繊のインサレーション・ジャケット(Rab Xenon Jacket)という組み合わせです。

実際、思ったよりも夜半過ぎから冷え込んだ為、同行したメンバーの一人は、体調不良と寝袋のスペック不足?により、夜中に、より高度の低い気温の高い位置に移動するというハプニングもありました。そんな中、NyxとPneuma Tyvek Bivyで寝ていた私は、そんなハプニングにも気づかず熟睡し、朝をむかえる事が出来ました。夜半には足先が暑くなったので、薄手のウールのソックスを脱いだ程で、非常に快適に眠れました。

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この時点でのNyxプロトタイプはPrimaLoft Sportsを使用しており、製品バージョンに採用されているPrimaLoft Oneよりもパフォーマンス的には劣るものでした。従って、製品バージョンのNyxは、この温度域において更に快適であったであろうと推測されます。

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次にご紹介するのは、標高約1,720m地点のキャンプ・ポイントの写真です。ここは、すり鉢状の谷の底で、冷気が溜まるのと、谷底の為に湿気が多く、結露も相応なものでした。ここでの明け方の最低気温は約8度で、前述のスリーピングシステムで快適に眠る事が出来ました。

シェルター内に結構な結露が発生しましたが、 パーテックス・クアンタムGLの撥水性と、化繊キルトの耐水性を試す為、ニューマ・タイベック・ビヴィを使用しないでテストを行いました。シェルター内の結露によりキルトは多少濡れましたが、機能性には全く問題無く快適でした。

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<フィールドテスト2:丹沢ステルス・ビヴァーク>

  • 時期:2013年5月初旬
  • 幕営地点高度域:約1,500m
  • 最低気温:摂氏0度以下(結露の氷結と水に薄氷を観測)
  • 天気:晴れ
  • シェルター: Spider shelter prototype
  • ヴィビィ: Pneuma eVent Bivy
  • 寝袋: Nyx prototype (PrimaLoft Sports version)
  • マット: Hypnos mat

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5月初旬の丹沢。標高にもよりますが、北部はまだまだ氷点下に成る事が多く、この日も明け方には0度以下となり、結露には氷結が見られ、用意した水には薄氷が張っていました。

この時のスリーピング・システムは、Hypnos MatにPneuma eVent Bivy、そしてNyx Quiltという組み合わせです。着衣のレイヤリングは、 中厚手のウールソックス(Patagonia mid weight)、化繊のボトムス(Patagonia GIII zip-off Pants)とダウン・パンツ(WM Flash Pants)、薄手の化繊ベースレイヤー(Patagonia Capilene 1 Silkweight Crew)、フード付きフリース(Patagonia R1 Hoody )、化繊のインサレーション・ジャケット(Rab Xenon Jacket)という組み合わせです。

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また、この時は愛犬のロッキーも同行していました。彼専用のマットとフリースを用意しましたが、しばらくそこで寝ていたものの、明け方には初キャンプで緊張したのか?寒さのせいかキルトに潜り込んできました。

この時点でのテストでは、Nyxの適正温度の下限として設定予定である摂氏5-6度の想定でしたが、一気に氷点下まで落ちました。しかし、ダウン・パンツと化繊インサレーションを着ていることもあり、非常に快適で、寒さは感じず、よく眠る事が出来ました。

このように、就寝時の着衣のレイヤリング・バリエーションによって、化繊キルトの対応温度域はかなりフレキシブルなものになり得るという事がおわかりいただけると思います。


<フィールドテスト3:フィンランド/コリ・ナショナルパーク・ハイキング>
  • 時期:2013年11月初旬
  • キャンプ地点高度域:約200m
  • 最低気温:摂氏0度
  • 天気:曇り時々雨、雪
  • シェルター: Khufu Sil (Custom Tan color)
  • ヴィビィ: Pneuma eVent Bivy
  • 寝袋: Nyx Final prototype (PrimaLoft One version)
  • マット: NeoAir XTherm Short & Thin foam mat

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フィンランドでの初めてのハイキングはあいにくの空模様で、ほぼ全行程で雨や雪に見舞われた、ウェットなコンディションとなりました。しかしながら、化繊キルトの性能をテストするには絶好の機会を得たことになりました。

予想した通り、ハイキング期間を通じて冷たい雨雪混じりのほぼウエットコンディションで気温は0度から5度くらいと、Nyxの設定した使用下限温度域ギリギリのところです。

まずは、ハット(山小屋)での使用から。

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これは、非常にデザイン的にも優れた山小屋で、中で焚火も出来る小屋です。薪は外にある別の小屋内に大量に貯蔵してあり、斧で割って使う事が出来ます。とても快適です。

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このように暖炉のような焚火を囲んで食事したり、寝る事ができますし、濡れた靴下や着衣も乾かせます。

外では雨が雪に変わり、あっという間に2-3cm積もり、それに従って気温も下がってきましたが、小屋の中は焚火で暖かく快適でした。しかし、焚火の火が消えた夜半過ぎから急激に冷え込み始め、やがて気温は約0度くらいと成りました。

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この時の着衣レイヤリングは、防水ソックス(Seal Skinz Mid-weight)、化繊パンツ(Patagonia Simple Guide Pants)、メリノ・ウールのハーフジップ(Smart Wool Half zip)、化繊ジャケット(Rab Xenon Jacket)という組み合わせで、シールスキンズのソックスが若干濡れていた点と、ボトムスが化繊のパンツだけだったので、急に冷え込んできた夜半過ぎから下半身、特に濡れた足先に若干の寒さを感じました。着替えや、化繊のインサレーションパンツやタイツを持参してましたが、着替えるのも面倒なのでそのまま、なんとかやり過ごしました。結果、寒くて全く眠れないという事はなく、そのまま眠り込んで朝をむかえる事が出来ました。

ドライなコンディションなら、このレイヤリングでも寒さを感じる事は無かったかもしれませんが、ソックスや他の着衣が濡れていると、やはり体温を奪われる感じがします。着替えを持っていれば、着替えるにこした事は無いですね。さすがに、気温が0度でウエットなコンディションだと、下半身もタイツを履くなりインサレーションパンツを着用した方がベターです。また、靴下はドライなものに履き替えた方が快適なのは言うまでもないです。

次にご紹介するのは、湖畔のキャンプ地での模様です。

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ここは、降り続いた雨と雪により、グランドコンディションは最悪で、水たまりが所々にできた非常にウエットな状態でした。グラウンドシートとしてタイベックのシートを敷き、その上に薄いフォーム・マット、そしてTherm-a-restのNeoAir Exstream short、Pneuma eVent bivyにNyx Quiltです。今回はさすがに化繊パンツの上に化繊のインサレーション・パンツを着用しました。

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また、結露もかなり発生しましたが、eVent-Bivyのお陰でキルトはほとんど濡れる事もなく、快適に過ごせました。明け方の最低気温は約3-5度くらいだったので、夜半には足先が暑くてソックスを脱ぎました。

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この後も、冷たい雨は断続的に降り続きます。

次にご紹介するのは、小高い丘の上にあるキャンプ地です。

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ここでは、さらに気温が下がり明け方の最低気温は約0度になりました。

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焚火で十分、靴とソックスを乾かします。フィンランドの国立公園のハイキングルートには、キャンプ地や休息ポイントにかならず薪小屋があり、そこの薪を使って指定の場所で焚火をしてよいとか。

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このような薪小屋が一定の距離ごとにあります。写真の場所は焚火はOKで、キャンプは禁止の場所のものです。


<コンクルージョン>

このように、Nyxは春から秋にかけての3シーズン、様々なフィールドで活用する事が出来ます。個人的には、気温や気象条件によっては着衣のレイヤリングによって最低気温が0度くらいまで対応可能、と結論づけました。Nyxの適正使用下限温度域としては摂氏約5度という設定です。これは、寒さに対する感覚には個人差があるからです。また、女性の場合は+5度くらいのマージンが必要とも感じています。

Nyxは背中に2カ所あるエラスティック・ベルトを薄型のバックルで留める仕組みになっており、またフットボックスの部分をプラホックで、さらに足元の開口部をショックコードおよびコードストッパーで開閉できる仕組みになっています。したがって、プラホックを留めて開口部だけ部分的に開いた状態で使用したり、フル・フラットの状態でも使用が可能です。使用する温度域に応じてフレキシブルに対応する事が出来ます。

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また、Nyxにはトップ・キルトとして、他のダウンの寝袋と組み合わせる事により、その寝袋の使用温度域の下限を補完するという利用方法もあります。

スイスでのフィールドテストでは、同行者のダウン寝袋のスペックが不足していたため、Nyxをトップ・キルトとして利用し、ダウンの寝袋だけの時よりも快適に眠る事が出来たという実例も得ています。

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さらに、番外編として、旅先の宿や車中泊の際に、このようにフルフラットで掛け布団のように使用する事も可能です。

2017-01-25T17:40:28+00:00